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ウチのユズ彦

[2013年04月29日]

こんにちは。獣医師の平松です。
僕は以前、神奈川の動物病院に勤めていましたが、
その病院では子猫を条件付きで預かり、里親を見つける活動をしていました。
病院の一角に「里親コーナー」という子猫の部屋が設けてあり、中を見られるようにしてありました。
そして、責任をもって飼って頂ける方に里親になってもらうというシステムでした。

ある日、ノラの親猫が子猫の育児放棄をしたようだとのことで、3匹の子猫が連れて来られました。
3匹とも可愛かったのですが、一匹だけ子猫なのに物凄く凶暴なのがいました。
咬むわ引っ掻くわで誰も手が付けられず、看護師さんも怪我をしてしまいました。

こうなると里親コーナーには入れません。
せっかく見に来てくれた里親候補に怪我をさせてしまいかねないからです。
完全に持て余してしまいました。

そこで、僕が家に連れて帰り、教育することにしました。
同僚の先生からは、「え、何でそんなことするの?そんなことしても給料上がんないよ?」
などと言われましたが、確かに暴れる猫の教育なんて考えただけで頭痛がしそうです。

家に連れて帰ると予想通りの大暴れでした。
そこで今回はアメとムチで教育することにしました。
人間にはかなわないということを身を以て知るが良い!!ということで、
暴れようが引っ掻こうがこっちも一歩も引きませんでした。

そうこうする内に、わずか1~2日程で引っ掻いたり噛みついたりしなくなりました。
次のステップとして、抱っこしたり撫でたりして、常に体の一部が触れているようにしました。
すると、猫もだんだん気を許し始め、ゴロゴロいうようになりました。
しめしめ、してやったりです。

名前も付けた方が教育上、良いだろうと思い「ユズ彦」と命名しました。
名前の由来は、僕がマンガの「あたしんち」が好きなので、
その登場人物にちなんで名づけました。

ユズ彦は昼間は里親コーナーで社会性を学び、夜は僕の家で人間との共同生活を学びました。
一週間もすると風呂にも入れるようになり、ドライヤーも嫌がらず大変優秀な子猫さんになりました。
通勤の電車の中では、キャリーの中でいつもニャーニャー鳴いて注目の的になってしまい、僕を困らせましたが、
猫好きのおばちゃんに可愛いねぇと声をかけてもらうことも日課となりました。

そんなある日の事、病院スタッフが、「先生が馴らしてくれたあの子、里親さん決まったわよ!今連れて行くところ!」
と言いました。
「え…、ホントですか、それは良かったです…」

この日のためにユズ彦を教育し、可愛がってきました。
最近ではちょっとしたイタズラも覚え、そろそろキャットタワーでも買ってあげようかな、などと考えていました。
知らず知らずの内にユズ彦とのこれからの楽しい生活を想像していました。
ユズ彦は人馴れさせるために僕が管理していただけだったハズ。
それなのに、たかだか数日のうちにこんなにもこの子猫に心を奪われていたとは…。

ユズ彦は新しい家族と幸せに暮らすんだ。
もう会えなくなるけど、幸せになってくれぃ!
涙ながらにユズ彦を見送りました。

3時間後。
病院スタッフが、「あの子、もともといた家の猫と合わなかったとかで、帰ってきたわよ。」
ユズ彦ぉぉぉーーー!!!
抱き上げる僕、迷惑そうなユズ彦。

あれから1年半、ユズ彦はまだ僕の家にいます。

獣医師 平松