嚢胞腎の星
[2021年10月10日]
こんにちは。獣医師の平松です。先日病院に電話があり、看護師さんが自分に「大阪の方から、びにゃんさんについてお聞きしたいとのことなんですが…」と言われました。
え、大阪からびにゃんについて??
びにゃんと言えば、しばらく病院で癒し担当として暮らしていましたが、現在はもう引退して家でぬくぬくやっております。
大阪にびにゃんの知り合いがいるハズもなく、何だろうと思いました。しかしすぐに、はは〜ん、とピンと来ました。恐らく、びにゃんの持病の多発性嚢胞腎について聞きたいのかなと察しました。というのも、これまでにも地方の方からびにゃんについて、どのような治療をしたのか、どのような健康管理をしているのか聞きたいと電話があることが過去にもあったからです。
過去にブログでびにゃんの多発性嚢胞腎について書いていたことが何回かあり、猫・多発性嚢胞腎と検索すると、ウチのブログも出てくるので、それを読んでのことかと思います。
↑ 最近お気に入りの紙袋でくつろいでいる様子。ご覧の通り、びにゃんは現在も元気にしております。
猫の多発性嚢胞腎は遺伝子変異により発生すると考えられており、若齢時に健康診断などでエコー検査を実施した際に発見されることが多いです。びにゃんもそうでした。腎臓に発生した嚢胞は進行性に数・大きさが増大し、最終的には正常な腎実質を圧迫することで腎不全になるとされています。
根治するための有効な治療法は残念ながらなく、進行を止めることも現段階では難しい状況です。教科書的には平均7歳程度で腎不全を発症し、通常の慢性腎不全よりも進行が早いことが示唆されています。
大阪からの電話の方は、若い飼い猫さんが多発性嚢胞腎と診断され、7歳くらいで腎不全になると宣告されたようで、不安の中ウチのブログを発見し、居ても立ってもいられず電話してしまったという感じでした。
そこで、びにゃんがこれまでやってきたことをお伝えしました。尿石症だったため尿石用の処方食をあげていたこと、やや高血圧の傾向があったため降圧剤を飲んでいた時期もあったこと、最近登場した腎不全薬を今は飲ませて様子をみていることなどです。
これらのことは多発性嚢胞腎に対し、有効性は示されているわけではありません。ですが、結果的にびにゃんは既に13歳を迎え、嚢胞の数・大きさは増大したもののまだ腎数値の明らかな上昇はなく元気です。
これまで日々の診察を行う中で、15歳とか18歳ぐらいの猫さんでたまたまエコーをとったところ、多発性嚢胞腎だったということはあります。残念ながら早い段階で腎不全に陥ってしまう多発性嚢胞腎の猫さんもいるとは思いますが、普通に元気に長生きしている子も少なからずいます。
突然、自分の家の猫さんが遺伝性の腎臓病と診断され、動揺する気持ちはとても分かります。しかし、どのぐらい健康な日々を送れるのかは、病気を持っている子も持っていない子も、結局未来は分からないので、一般的な健康管理をしつつ、なるべくストレスがない生活を心がけて行けば良いのではないかと思っております。
病気が判明し、今のうちにできる治療を!と焦る気持ちはよく分かりますが、大切なことは、いま目の前にいる猫さんに目一杯の愛情をそそいであげること、日常の健康管理に気を付けてあげること、猫とのその日その日の生活を大事にしていくことだと思います。
猫だけでなく犬も、そのような日々の積み重ねが、きっと健康につながると信じております。びにゃんも多発性嚢胞腎の星として、ちょっと責任重大な感じですが、画像のようにストレスなくぬくぬくやっていますので、まだまだ頑張れる予感がする今日この頃です。全国の多発性嚢胞腎の猫さんを、びにゃんと一緒に応援しております。
獣医師 平松